【特別寄稿】「森の香りのそこから先 その2」北海道大学 松永壮

昨日から2日間にわたって松永壮博士による【特別寄稿】「森の香りのそこから先」を掲載しております。本日はその2回めとなります。前回はこちら→ http://scientific-global.net/【特別寄稿】「森の香りのそこから先」1/

続き

○ BVOCの特徴:樹種が違うと全く違う

 光合成では植物は二酸化炭素を取り入れ、酸素を放出します。これはどんな植物でもおおよそ同じように行われていることです。しかし、BVOCについては違います。種類が異なる植物は、全く異なるBVOCを放出します。つまり、同じ森林であってもそこに生育している樹種が異なれば、放出されるBVOCは全く異なる、つまり、構成する樹種によって森林は全く異なる香りを持つということになります。このことを意識してみると森によって香りがずいぶんと違うことが分かります。しかし、これは実のところ、森の香りということだけにはとどまりません。放出されるBVOCの種類によって、その環境影響は大きく異なります。つまり、同じように見える森林であっても、その森林を構成する樹種が違えば、その環境影響は大きく違うということです。我が国では、1960年前後の高度成長期に全国各地でスギやヒノキを植林しました。現在の日本の森林でスギやヒノキの林が多く見られるのはこのためですが、この大規模な人工造林が行われる前、これらの森は主にミズナラやコナラおよび常緑広葉樹で構成されていたと考えられます。これらの樹種が放出するBVOCとスギやヒノキが放出するBVOCは量的にも質的にも全く異なるもので、戦後の大規模造林によって国内の大気環境は大きく変わったと考えられます。

○ 花粉だけじゃないスギやヒノキ

上述のように、日本の森林に最も多い樹種はスギとヒノキです。これら2つの樹種は国内森林総面積の約45%を占めると推定されています。中でもスギは花粉症の人たちを悩ませる花粉の発生源として厄介者と見られているところがあります。一方BVOCについても、スギやヒノキは大変興味深い対象です。まず、あまり知られていないことですが、スギもヒノキも日本固有の樹種で、日本にしか生育していません。したがってこれまで欧米が先行してきたBVOCの研究では、スギやヒノキの研究例がほとんどありません。しかし、スギとヒノキは上述のように国内で最も多い樹種であることに加えて、実に変わったBVOCを大量に放出することも分かってきており、今後研究が進められることになっています。

○ おわりに:生物多様性とBVOC

 ここまであまり聞き慣れないBVOCの放出とその環境影響に注目して話を進めてきました。その一方で、植物は「なぜ」BVOCを放出するのでしょうか?BVOCの放出にはコストがかかります。つまり光合成によってやっと獲得した炭素を原料として消費しなくてはいけないので、私を含む多くの研究者は、何かやむにやまれぬ理由があって植物はBVOCを放出しているはずだと考えています。BVOCには葉の熱対策ではないかと考えられているものや、虫除け、防カビ、天敵の天敵を誘引する効果などを持つものが見つかってきており、部分的な知識は蓄積されつつあります。しかし、BVOC放出要因の本質にたどり着いた研究は今のところありません。私は、多様な生物が関わり合って生きる森林生態系の中で「なぜ」植物はBVOCを放出しなくてはならないのか、そしてそのBVOCが環境を変えることで森林に何が起こるのか、これらの謎に答えるために、私は研究を進めています。

【筆者紹介】

松永 壮 (まつなが そう)

学位:博士(地球環境科学) 北海道大学大学院地球環境科学研究科(2003年3月25日第6503号)
現職:北海道大学苫小牧研究林 博士研究員

学歴
2003年3月: 北海道大学大学院地球環境科学研究科大気海洋圏環境科学専攻博士後期課程修了

教育・研究歴
1995年6月-1998年2月: 啓明会学院講師(大学受験化学)
2000年4月-2003年3月: 日本学術振興会特別研究員DC1
2003年4月-2005年1月: 日本学術振興会特別研究員PD(2003年4月~2005年1月の期間、米国National Center for Atmospheric Research (NCAR)へ研究留学)
2005年1月-2005年6月: Postdoctoral Research Associate in Atmospheric Chemistry Division, NCAR
2005年6月-2007年6月: Postdoctoral Fellow with Advanced Study Program, NCAR
2007年6月-2008年3月: 財団法人石油産業活性化センター 契約研究員(副主任研究員)
2007年6月-2008年3月: (兼任)首都大学東京都市環境学部 客員研究員
2008年4月-2011年3月: 財団法人石油産業活性化センター 契約研究員(主任研究員)
2008年4月-2009年3月: (兼任)首都大学東京都市環境学部 客員准教授
2011年4月-2012年3月: (改称)一般財団法人石油エネルギー技術センター 契約研究員(主任研究員)
2011年4月-2012年3月: (兼任)静岡県立大学客員共同研究員
2012年4月-現在: 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター苫小牧研究林 博士研究員

賞罰(受賞)
2000年3月 松野太郎記念修士論文賞 松永壮 「大気中の水溶性有機物分析法の開発と生成変質過程の解明」 北海道大学大学院地球環境科学研究科大気海洋圏環境科学専攻(化学系) 北海道札幌市
2005年4月 Postdoctoral fellowship award in Advanced Study Program, Sou Matsunaga, National Center for Atmospheric Research, Boulder CO, U.S.A.
2007年1月 大気化学研究会奨励賞 松永壮 「大気中半揮発性有機化合物の採取分析法開発およびイソプレン分解生成物のエアロゾル成分としての全球的寄与推定への応用」 大気化学研究会 愛知県豊川市
2012年9月 大気環境学会論文賞 茶谷聡、森川多津子、中塚誠次、松永壮 「3次元大気シミュレーションによる2005年度日本三大都市圏PM2.5濃度に対する国内発生源・越境輸送の感度解析」 大気環境学会

学界活動
【学会活動】
生物起源微量ガスワークショップ 実行委員
大気化学研究会 会員
日本地球化学会 会員
日本生態学会 A会員
アメリカ地球物理連合(AGU) 会員
日本地球惑星科学連合 会員

【研究集会の企画】
日本生態学会自由集会「森が大気を変える-微量大気成分を支配する森林生態系」

社会活動
【民間団体における活動】
日本民家再生協会 友の会会員

【学術論文の査読:最近3年間】 IFは査読した雑誌のインパクトファクター。全て国際誌。
2010年 Atmospheric Environment (IF: 3.5), Atmospheric Pollution Research (IF: N/A, newly launched journal), Environmental Engineering Science (IF: 0.89)
2011年 Atmospheric Environment (IF: 3.5), Biogeosciences (IF: 3.3), Environmental Engineering Science (IF: 0.89)
2012年 Atmospheric Environment (IF: 3.5) 2件

 


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